旧約聖書ってなに?
私たちは今、キリストを救い主と信じる信仰によって救われる、新約の時代に生きていますが、新約聖書は旧約聖書の土台に基づく書物なので、旧約聖書がわかると、より一層全体の理解を深めることが出来ます。そこで、旧約聖書の全体像を大掴みにしておきたいと思います。
旧約聖書は、キリストが誕生する前の紀元前に書かれた39巻を指していて、キリスト教解釈に基づけば、律法、歴史書、文学書、預言書の4区分に大別されます。
キリスト教解釈とあえて申し上げたのは、旧約聖書はユダヤ人が信仰するユダヤ教の正典でもあるためで、ヘブライ語聖書では並び順が異なり、彼らは律法、預言者、諸書に大別しています。ただし、その内容が異なるわけではありません。
また、ユダヤ教ではイエス・キリストを救い主とは認めていないので、新約聖書は正典とせず、彼らが口頭で伝承してきたことを纏めたミシュナ、ゲマラからなる「タルムード」を、旧約聖書と並ぶユダヤ教の正典として加えています。従って、ユダヤ教では、旧約聖書が指し示す救い主は、まだこの世に来ていないと考えられています。
律法(モーセ五書):5巻
律法は、旧約聖書の冒頭の「モーセ五書」と呼ばれる「そうしゅつれびみんしん」(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)を指します。これらは元々一つの書物でしたが、後の時代に分割されて今の呼び名がついています。中でも創世記は、この世界の誕生から、救い主の系譜となるユダヤ民族の形成までを描いていて、主に「そうだ、こうば、ア~イヤヨ!」の歴史が綴られます。
・そう【創造】 天地創造 アダムとエバ エデンの園
天地創造の「創」で、世界の誕生から始まり、最初の人アダムとエバがエデンの園に置かれます。
・だ【堕落】 人間の堕落 善悪の木 原罪 楽園追放 救い主の預言
人間の堕落のことで、食べてはいけないと言われていた善悪の木から実を取って食べたことにより、人に罪が入って楽園を追放され、神が人を救うために救い主を遣わすことが宣言されます。
・こう【洪水】 ノアの箱舟 セム ハム ヤフェテ
洪水によってそれまでの世界が滅ぼされ、ノアの箱舟によって生き残ったセム、ハム、ヤフェテという子供たちから全世界の民が誕生します。
・ば【バベル】 バベルの塔 人間の驕り 言葉の混乱
バベルの塔という、人間の驕り高ぶりを象徴する塔を作ろうとしたことで、神は人間の言葉を混乱させ、多言語化が始まり、人々が世界中に散っていく契機となります。
ここまでが世界の成り立ちの歴史で、創世記12章から、神が宣言された「救い主」を世に送るための、民族の形成の歴史がクローズアップされます。その頭文字が、「ア~イヤヨ」(アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフ)という4世代にわたる人々を通して、救い主を送り出す民族が形成されていく歴史が綴られます。
・ア【アブラハム】 信仰の父 神の一方的な約束(アブラハム契約)
アブラハムは元々メソポタミアにいた人で、神の言葉を素直に信じて義と認められた「信仰の父」と呼ばれる人物です。そして神は、アブラハムが私たち人類の祝福の基となるという、聖書全体を貫く大原則をアブラハムに約束されます。
・イ【イサク】 イシュマエルとの分離
二代目イサクの兄であったイシュマエルがアラブ人の先祖となって、救い主の系譜から分離していきます。
・ヤ【ヤコブ】 エサウとの分離 イスラエル 12部族
三代目ヤコブは神からイスラエルと名乗るよう命名され、ヤコブから生まれた子孫がイスラエルの12部族を形成していきます。
・ヨ【ヨセフ】 エジプトに寄留 ユダを筆頭とする民族の形成
四代目の12人の1人ヨセフは、兄弟たちに疎んじられてエジプトに売り飛ばされてしまいます。けれども彼は後にエジプトで宰相となって、兄弟たちもエジプトに寄留することとなります。そして、ユダヤ人と呼ばれる由来となったユダを筆頭に、彼らはエジプトで一大民族へと成長していきます。
後の四書は、創世記の終わりから400年後、一大民族(ユダヤ民族)となったイスラエルが、奴隷生活を強いられていたエジプトを脱出する、紅海を渡るシーンで有名な「出エジプト」から始まります。そして、モーセを介して、神から「十戒」をはじめとする律法が付与され、「約束の地」を目指す、荒野の40年が綴られます。これらがモーセ五書と呼ばれ、ユダヤ教では律法(トーラー)と呼んでいます。
歴史書:12巻
歴史書では、イスラエルが「約束の地」であるカナンの地に定住する過程とその後の歴史が綴られます。
イスラエルは、ダビデ、ソロモンの時代に王国としての最盛期を迎えた後、10部族からなる「北王国・イスラエル」と2部族からなる「南王国・ユダ」に分裂し、北はBC722にアッシリアによって滅ぼされます。そして、南はBC586年に新バビロニアによって滅ぼされ、「バビロン捕囚」と呼ばれる、多くの人がバビロンに捕囚となって連行されるという結末を迎えます。それらは、サムエル記、列王記、歴代誌に詳述されています。
そして捕囚から70年後、彼らは新しい支配者となったペルシャによってカナンの地への帰還が許され、国が再建されます。その過程を綴った書物がエズラ記、ネヘミヤ記です。これらが歴史書となります。
文学書:5巻
かなり古い時代の義人と呼ばれるヨブを描いたヨブ記や、ダビデやソロモンらが歌った詩歌、格言などを纏めた、ヨブ記~雅歌を、詩文、文学書と呼びます。
預言書:17巻
旧約の時代には折々で神から預かった言葉を告知する「預言者」が登場します。彼らの預言が綴られた書物群を預言書と呼び、イザヤ書からダニエル書までが大預言書、ホセア書からマラキ書までが小預言書に大別されます。これらの書物では、それぞれの時代に語られた預言はもちろん、救い主の到来やその生涯、そしてこれから起こることが様々に預言され、私たちは今、それらの着実な成就を確認することが出来ます。
このように、旧約聖書を概観すると、旧約聖書は、世界の始まりから、救い主の到来を待ち望むという、聖書の前半部分が納められた書物であることがわかります。この土台を基に、救い主の誕生からこれから起こることまでを網羅した後半部分の新約聖書を読み進めることによって、私たちは、聖書の究極的な著者である神が、いかに有限実行で、揺るぎない存在であるか、そして、聖書に語られた言葉の一つ一つが、いかに奥深く、生きた神の言葉であるかを知ることが出来るのです。
「天地は滅びるであろう。しかしわたしの言葉は滅びることがない。」
(マタイによる福音書24:35 ※口語訳)
2022.7.30